東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)213号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1(一) 成立に争いのない甲第二号証の三によれば、本願明細書には、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。
本願考案は炭酸ガス圧を利用して生ビール回路を洗浄する装置に関するものである(全文補正書第一頁第一三行、第一四行)。生ビールの各種器具はこれを洗浄することなく放置するとビールの酵母、蛋白質等が凝着して腐敗し、あるいは悪臭を放つ等の悪影響がでるため、生ビールの抽出作業が終了した後は、毎日あるいは週に一度ほどは必ず分解洗浄を施す必要があり、従来は、例えばホースの先端に金具類を嵌着し、これを水道用ホース等に結合して水圧を利用して洗浄したり、瞬間湯沸器を利用して湯水を通すなどしていたが、これらの方法は、別製の取付用金具を備える必要があり、また他のホースとの結合に手間を要し、さらには瞬間湯沸器等と生ビール器具との場所的位置関係で諸種の難点があつた(同第一頁第一五行ないし第二頁第一一行)。本願考案はこれらの欠点を解消し、洗浄水を充填したタンクの上面に生ビール取出用ヘツドを嵌合し、このタンクを逆さにして炭酸ガスをタンク内に圧送し、このガス圧を利用して生ビール器具を一挙に洗浄できる装置を提供することを目的とし(同第二頁第一一行ないし第一七行)、本願考案の要旨記載のとおりの構成を採用したものである(同第一頁第四行ないし第一一行)。
本願考案は、右構成を採用したことにより、炭酸ガス圧によりタンク内の液を生ビール回路中に圧送してこれを洗浄でき、さらには、該液自体が炭酸ガスと混合して泡状を形成することにより洗浄効果を一層助成し、きわめて簡易迅速かつ確実に生ビール回路が洗浄できるという作用効果を奏するものである(同第四頁第九行ないし第一八行)。
(二) 他方、引用例には、審決認定の技術的事項が記載されていることは当事者間に争いがない。
2 原告は、本願考案はタンクの設置を逆さにすることによつて、ボンベから送られてくる炭酸ガスを洗浄水の中に注入させて混合し泡状を形成させ、これを生ビールホースに圧送させることによつて生ビールホース内を効果的に洗浄することができるという顕著な作用効果を奏するものである旨主張する。
そこで検討するに、成立に争いのない甲第四号証(実験結果報告書)によれば、洗浄力についての実験結果報告書に示されている実験例においては、タンクの設置を逆さにした場合、洗浄水と炭酸ガスとの混合液が泡状を形成していること、及び右混合液は泡状を形成していないものに比較してホース内に付着させたものをより良く洗浄剥離させる効果があることが一応認められる。
しかしながら、前掲甲第四号証によれば、実験結果報告書に示されている実験例は、ビール酵母をホース内壁に付着させるには最低一年間の時間を要するので、小麦粉とビールの水溶液を代替としてホース内に付着乾燥させ、酵母の付着した汚れたホースの代わりとして洗浄実験に使用したものであることが認められ、実際に生ビールホースとして使用され、ビール酵母や蛋白質等が付着したものについて、泡状を形成している洗浄液とそうでない液との洗浄力の比較を行なつているものではないから、右実験結果からは、実際に生ビールホースとして使用されたホース洗浄において、泡状になつた混合液と単なる洗浄液とで洗浄効果にどの程度の差異があるのか確認することはできない。また、本願考案は、生ビール抽出作業後、毎日あるいは週一回程度行なう生ビール回路の洗浄作業を簡単迅速に行なうことを目的としたものであることは前記1(一)で認定したとおりであるところ、生ビールホース内壁への酵母等の付着度合い(付着量及び付着強度)は、該ホースを使用後、洗浄までの期間がどの程度かによつて差異があることは自明のことであるから、生ビールホースを毎日洗浄した場合に泡状となつた混合液と単なる洗浄液とで洗浄効果にどのような差異がでるのか、あるいは使用後一週間程度経た生ビールホースではどうかという点についても右実験結果からは確認することができない。このように、右実験結果報告書からは、比較すべき二つの液(泡状となつた混合液とそうでない洗浄液)の実際の酵母菌が付着した場合での洗浄力についての定量的な効果の差異、及び使用した生ビールホースの洗浄時期と酵母等の付着の度合いとその洗浄効果について確認することはできず、実際に生ビールホースとして使用されたホースの洗浄において、炭酸ガスと洗浄水とが混合されて泡状を形成しているものが、そうでない洗浄水に比較して格別洗浄効果が顕著であると認めることはできない。
したがつて、タンクの設置を逆さにしたことによつて顕著な洗浄力を得たとする原告の主張は採用し得ない。
また、原告は、引用例記載のものはサイフオンを使つて生ビールを容器から抽出しているのに対し、本願考案はサイフオンを有さない点で両者の装置には差異があり、本願考案は、引用例記載のものを単に転用したものとはいえないと主張している。
しかしながら、引用例記載のものは、容器の嵌合部が上面に位置するように容器が設置され、容器内の液体は下方に存在しているから、右液体を容器外に抽出するためにサイフオンを必要としているのであり、容器の位置を本願考案のように逆さに設置すれば、容器内の液体は嵌合部付近に存在することになるから、その抽出に当つてはサイフオンを必要としなくなることは技術上自明のことである。してみると、引用例記載のものを本願考案のような生ビール回路洗浄装置に転用するに当たつて、サイフオンを取り外すようなことは単なる設計事項にすぎないものといわざるを得ない。
したがつて、本願考案は、引用例記載のものを単に転用したものにすぎず、それによつて生ずる効果も当然予測できるものであるとした審決の判断に誤りはない。
3 以上のとおりであるから、本願考案と引用例記載のものとの相違点についての審決の判断は正当であつて、審決に原告主張の違法は認められない。
三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。
〔編注1〕本願考案の要旨は左のとおりである。
Co2ガスタンク(7)に接続し、且つ、Co2ガス通路(6)を備えた生ビール取出用ヘツド(2)の嵌合部(3)をタンク(1)の上面に突設して、該ヘツド(2)を嵌着したものに於て、前記タンク(1)には洗浄水を充填し、且つ、該タンク(1)の前記嵌合部(3)が下面に位置するように該タンク(1)を逆さにしたことを特徴とする生ビール回路洗浄装置(別紙図面(一)参照)。
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
(以下省略)